国家より強い企業ルールが世界を動かす
いま世界の多くの地域では、実際に国家よりも多国籍企業の方が力を持つ現象が進んでいる。たとえばコーヒー豆の輸出。農家が従うのは、かつての植民地政府ではなく、ネスレやスタバといった巨大企業のガイドラインだ。「農薬はこの基準で」「木陰を何%確保して」「収穫時はこのアプリで報告して」これ、法律じゃなくて企業ルール。従わないと、世界市場から切り離されてしまう。つまり、企業が生活のインフラを握っているとも言える。
認証の原点。ヨーロッパから始まった仕組み
フェアトレードの最初の波は、1960〜70年代のオランダやスイスから始まった。スイスの「Max Havelaar(マックス・ハヴェラール)」認証、オランダの同名組織が代表格だ。名前は小説由来でかわいらしいが、仕組みは本格派。目的は単純で、「途上国の生産者を公正な価格で守る」。でも、最初に資金を出したのは小さなNGOではなく、ヨーロッパの大手財団や教会系団体だった。たとえば、スイスの「Fairtrade Foundation」、オランダの「Solidaridad Network」、ドイツの「TransFair e.V.」、これらは、それぞれ政治家や学者、財界人が関わる「エリート層ネットワーク」の影響下にあった。
Fairtrade Foundation、Solidaridad Network、TransFair e.V.の各組織は、世界経済フォーラム(WEF)と直接的な公式パートナーシップを結んでいるわけではないが、いくつかの間接的なつながりや、関係者が個別にWEFの活動に関与しているケースが見られる。
EUと北欧財団が動かす認証市場
1990年代に入ると、フェアトレードやエシカル認証は急速に拡大する。その背景にはEUの貿易政策と財団による資金提供があった。EU議会は「持続可能な貿易」の法案を通し、ラベル制度を後押し。北欧の「Swedfund」や「Norad」が開発資金を提供。ドイツの「Gepa」「TransFair」などが現場監査の枠組みを整備。こうして、認証の基準とルールは欧州中心に統一されていく。つまり、現場の農家や小規模事業者は「欧州のルール」に従わざるを得なくなった。
巨大企業とNGOの結託構造
2000年代以降、ユニリーバ、ネスレ、スターバックス、マークス&スペンサーなどの多国籍企業が認証ラベルに飛びつく。理由は単純。「倫理ラベルはブランド価値」と「ESG投資での評価」に直結するからだ。ここで興味深いのは、企業とNGOが表向きは緩やかに、裏では緊密に結びつく構造ができたこと。
- NGOは認証基準を提供
- 財団は資金と政治的後押し
- 企業は認証ラベルを広告・CSRとして活用
- 欧州の政策機関は認証を公式に推奨
この結果、認証制度は「善意のルール」から、企業と投資家に都合の良い制度へと変化した。見た目は善意のラベルでも、構造を追うと現代版サプライチェーン帝国の姿が浮かび上がる。つまり、現在の認証制度は不完全で生産者の味方ではないのだ。
第7回:アフリカで起きている第二の独立。ブルキナファソの例は何を示すか
ブルキナファソの植民地時代から続く流通・外資依存構造が、現地の農業と倫理消費にどんな影響を与えているのか。ブルキナファソの第二の独立を通じて、新植民地主義の実態とフェアトレードの限界を読み解きます。


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