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第4回:生産者にとってフェアなのか?公平の名を借りた排除

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「フェア」のはずが、現場では不公平が生まれる矛盾

フェアトレードは弱い立場にいる生産者を守る制度として広まった。コーヒー豆、カカオ、バナナ… スーパーに並ぶ商品には、青や緑のロゴが貼られ、「これを買えば生産者を救えます」と語りかけてくる。

けれど、実際に生産地に足を踏み入れた研究者やNGOが共通して口にするのが、フェアトレードは、もっと複雑で、もっと不公平だという現実だ。なぜか?それは、制度の中心にいるのが認証する側だからだ。

認証取得の費用で苦しむ小規模農家

フェアトレード認証は無料ではない。むしろ、かなり高い。

・初回の監査費用
・毎年の更新料
・改善レポートの提出
・組合組織の維持
・書類作成のための担当者雇用

これらが農家の負担にのしかかる。とくに厳しいのが、小規模農家だ。数ヘクタールしか持たない家族経営では、監査費用だけで年間収入の大部分が消えることすらある。本来、フェアトレードは小規模農家の支援を掲げていたはずなのに、認証を維持できるのは、資金に余裕のある大規模農園か、欧米NGOの支援を受けた組織だけという状況が生まれている。これをフェアと呼べるだろうか?

認証を取れなければ市場にアクセスできないという新たな門前払い

2000年代以降、欧州のコーヒー・チョコレート輸入業者は、「認証のない豆は扱いません」という方針を強めていった。理由はシンプルだ。CSR(企業の社会的責任)のアピールになる。消費者に安全と倫理を保証できる。ブランド価値を高める。トラブルが起きた時、責任を認証機関に丸投げできる。つまり、企業にとって認証は保険のようなものでもある。

そしてこの保険が、市場への入口を塞ぐ検問所の役割を果たすようになった。認証を持つ農園だけが、欧州の高値市場にアクセスできる。逆に認証がない農家は、従来の地元市場や仲買人に安く買いたたかれるか、最悪の場合、市場から排除される。フェアトレードが掲げた市場参加の公平は、現場では認証による排除にすり替わってしまった。

地元商人の排除と欧州基準への依存

フェアトレード認証が導入される前、アフリカや中南米の農家にとって頼りだったのは地元商人だった。昔からのネットワーク。地域の事情を理解した融資。収穫前の前払い。天候不作の際の救済。もちろん、すべてが良心的だったわけではない。しかし、地元経済を支えていたのはこの商人たちだった。

ところが、フェアトレード認証は輸出→欧州基準に適合する農園組織のみに対応しているため、地元商人は仕組みの外に追いやられる。結果として、生産者は欧州の基準で、欧州の監査を受け、欧州の市場に依存し、欧州の認証団体に料金を払い続ける。という構造に組み込まれていく。自由に売る先を選べるはずの農家が、気づけば認証という鎖につながれているような状態だ。

利益はどこへ?流通・認証・購入国側に戻る仕組み

フェアトレード商品の売り場で見かける価格差を思い出してほしい。普通のチョコレートより少し高い。普通のコーヒーより値段が上がっている。「この差額が生産者に届くんだよね」と思いたくなる。でも実際は違う。

複数の調査で明らかになっているのは、価格差の大部分は、生産国ではなく購入国側に吸収されているという事実だ。輸入商社、焙煎会社、ブランド企業、小売店、認証機関、彼らが倫理的な商品として高く売ることで受け取る利益のほうが、農家に渡るプレミアム価格の上乗せ分をはるかに上回っている。フェアトレードは「高く売る権利」を欧州企業に与えたとも言える。農家はその象徴として利用され、価値の多くは欧州へ戻っていく。

これは契約ベースの新植民地構造なのか?

植民地時代、列強が軍隊を送り込み、資源と人を搾取していた。

独立後、金融・債務・投資・国際基準によって、契約の形式を使いながら同じ構造が維持されてきた。フェアトレードも例外ではない。そこには銃も軍艦も存在しない。しかし、「認証」「契約」「基準」「監査」という形で、生産国は欧州側の規定に従わざるを得なくなる。

もちろん、フェアトレードが完全に悪だと言いたいわけではない。制度が助けた農家もいる。欧州企業の意識を変えた功績もある。だが、現場を見ると、公平を名乗る制度が、別の不公平を生み出している事実も否定できない。もしこれを新植民地主義と呼んだとしても間違いではないだろう。生産国ではなく、購入国側が制度の中心にいて、生産者はそのルールの外に出られないからだ。

第5回:巨大企業の参入で加速した倫理の金融化

次回は「フェアトレードを支える欧州の政治・NGO・財団ネットワーク」について深掘りします。なぜ欧州が倫理の基準を作り続けるのか?その背景にある歴史・政治・ビジネス構造を解き明かします。

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