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第3回:フェアトレードの価格は誰が決めているのか

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善意の制度を動かす見えない力学

フェアトレードのコーヒーやチョコレートにはフェアトレード最低価格というものが存在する。これを聞くと、多くの人はこう思う。「生産者が搾取されないための、正しい価格なんだろう。」しかし、その価格は誰が、どのように決めているのか?

答えはシンプルだ。欧州にある認証団体(とその委員会)が決めている。生産地の農家の人々が会議して、「このくらいの価格にしてほしい」と決めたわけではない。さらに言えば、その基準を作っているのは、現地の労働組合でも、農協でもない。欧州の団体が基準を作り、生産者がその基準に従うことでフェアが成立する。ここにすでに非対称性がある。

認証団体はどうやって利益を得ている

フェアトレードラベルを商品に貼るには、企業が認証団体へライセンス料を支払う。さらに、生産者側も「認証を受けるための審査費」「定期的な監査費」「基準に合わせるための設備変更コスト」などが発生する。

もちろん、認証団体にも運営費が必要だ。だが、構造的には生産者と企業の双方が認証団体に支払う仕組みになっている。そのため、フェアトレードは善意の制度であるにも関わらず、認証団体は制度の大きさに比例して収入が増える という仕組みになっている。制度が拡大すればするほど、団体は収益を得られる。ここに、制度的なバイアスが生まれやすい。

善意と商業性が同居する矛盾

フェアトレードの認証団体は非営利を名乗るが、「収益を上げる必要がある」という現実は避けられない。認証が増えれば収入が増える。ならば、認証を広めるためにPRする。実際、2000年代に日本で「フェアトレード」という言葉が急増した背景には、認証団体と企業によるPR活動があった。当時メディア側に、PR会社を通じて大量のプレスリリースが流れてきたのはその証拠だ。

企業にとっても「エシカル」を掲げると、イメージが良い、広報がしやすい、商品の付加価値が上がる。というメリットがある。つまりここには、認証団体の経済合理性と企業のブランド戦略という二つの商業的動機が交差している。善意の制度といっても、マーケティングと無縁ではいられないのだ。

生産者側の見えない負担

そして最も見落とされるのが、生産者の負担が意外と大きいという事実だ。フェアトレードの基準は細かく、生産者はそれを守るために、化学肥料や農薬の制約、労働環境の改善、児童労働の禁止、経理の透明化、定期監査への対応、などが必要になる。

倫理的には正しい。しかし、これらを実施するコストを誰が負担しているのか?答えは、生産者だ。さらに、認証には落第もある。監査に通らないと認証を取り消され、フェアトレード市場へ出せなくなる。これは弱い立場の生産者にとっては大きなリスクだ。

フェアトレード農家になったら収入が増えるのは本当か

一部の生産者は収入が安定した。これは事実だ。しかし同時に、

  • 認証を取得できない貧困農家が取り残される
  • 認証コストを賄えず脱落する農家が続出
  • 認証に適した農園だけが優遇される

という新たな格差が生まれるという報告もある。もっと言えば、フェアトレード最低価格が実際の生産コストをカバーしきれていないという批判もある。「フェア」という言葉は美しいが、現実にはすべてを救える制度ではない。

欧州中心の制度は、なぜ疑問視されるのか?

フェアトレードの倫理基準は美しく、理念は正しい。しかし、価格を決めているのは欧州、認証基準を作っているのも欧州、審査するのも欧州系団体、ラベルの使用料は欧州へ、PRも欧州企業中心、という構造は否めない。

これを簡単に言えば、「良いことをするための制度なのに、権力は欧州に集中している」という矛盾だ。どうしても新植民地主義的な構造を連想させてしまう。

もちろん、認証団体に悪意はない。しかし、善意だけでは制度は動かない。制度が巨大化すると、どうしても制度を維持する論理が優先される瞬間が生まれる。

フェアトレードは搾取の歴史への反省として生まれた

制度を批判したが、フェアトレードが意味のある制度であることは事実だ。なぜなら、
植民地時代から続く搾取の歴史に対する反省として生まれたからだ。ただし、その一方で、「欧米の企業」「国際金融機関」「認証団体」の資源メジャーとは違うソフトな支配構造といった存在が、制度を通じて影響力を保持している面もある。つまりフェアトレードは善意の制度であると同時に、欧州中心のルールでもあるのだ。

では、私たちはどう向き合えばいいのか?

ここが最も重要なポイントだ。フェアトレードを批判しても仕方がない。制度は必然として矛盾を抱える。重要なのは誰がどのように作っているかを知ることだ。フェアトレード商品を買うかどうかは、そのあと自分で判断すればいい。消費行動とは、小さな外交行為のようなものだから。

第4回:生産者にとってフェアなのか?公平の名を借りた排除

フェアトレード認証は小規模農家にとってフェアなのか。高額な認証費用、市場からの排除、地元商人の崩壊、欧州基準への依存。公平の名の下に生まれる新たな不平等。善意の言葉がいつの間にか影響力の装置になるメカニズムを解説します。

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