フェアトレードの仕組みを追いかけてきて、最後に行きつくのはシンプルな問いだ。本来は作る側が真ん中にいるべきなのに、現状では、認証団体、欧州の基準、企業、投資家が大きな力を持っている。では、本当にフェアな取引を実現する未来はあり得るのか? その「再発明」の道筋を探ってみよう。
生産者が自分たちの基準をつくる時代へ
いま、アフリカやラテンアメリカの農協の間で、静かに風向きが変わりつつある。欧州の認証を受け取る側ではなく、自分たちで基準をつくろうという動きだ。「土地ごとの文化や農法の違いを、欧州の一律の基準で判断されるのはおかしい」「認証のための書類作業や負担が、農家の時間と資金を奪っている」こうした声が積み重なり、生産者主導型の認証が生まれつつある。
たとえば、南米ではローカル基準でのコーヒー認証をつくる団体が出てきているし、アフリカでも地域共同体が品質基準を定義する実験が始まっている。キーワードは、「欧州中心からの脱却」。フェアの意味を決める権利は、本来そこにあるはずだ。
透明性は第三者ではなくデータが担う
紙の証明書や遠隔の監査員に頼るのではなく、生産の履歴そのものを見せるほうがフェアなんじゃないか?そんな考えから、デジタル証跡(トレーサビリティ)の仕組みも出てきている。
「どこで育てたか」「誰が収穫したか」「どのルートで海を渡ったか」「どの業者がどれだけの利益を取ったか」。こうした情報をブロックチェーンや分散型データベースで残す試みが進み、「認証団体が言うからフェア」ではなく、「データを見ればフェアかどうか分かる」という世界が近づいている。
もちろん、技術さえあれば全て解決、というほど甘くはない。電力やインフラの問題、データの管理主体の問題もある。でも、欧州の基準を満たすための書類よりは、ずっと現場の負担が軽くなる可能性がある。
金融商品になった認証から離れられるか?
これまでの回で見てきたように、認証制度は「投資評価」「企業イメージ」「ESGスコア」に組み込まれ、部分的には金融商品化されてしまっている。
ある意味、それは仕方がない。世界の流通を動かしているのは企業で、企業を動かしているのは投資家だ。その文脈に入らなければスケールしない、という現実もある。だからこそ、再発明のキモはここにある。
「金融化からどれだけ距離を取れるか?」「生産者にとって無理のない仕組みをつくれるか?」。欧州の基準を輸入するのではなく、南側が主導し、必要に応じて北側が参加する。そんな逆転の構図を実現できるかがポイントだ。
じゃあ、消費者の役割は何なのか?
「なんだ、結局むずかしい話になるんじゃん」と思うかもしれないけれど、消費者ができることは案外シンプルだ。
ラベルの数ではなく物語の発信源を見る
誰が語っている情報なのか。企業のPRか、認証団体か、生産者自身か。発信源を知るだけで理解が深まる。
顔の見える生産者を選ぶ
ローカルロースター、クラフト輸入、農家インタビューのある商品など。認証よりも、作り手の言葉のほうがリアルだ。
良い話だけで判断しない
美談は心地よいけれど、背景の構造がどんなものかを考えてみる。その商品が誰を豊かにしているのか?を意識するだけで十分。
フェアトレードは終わったのではなく、まだ始まってもいない
今回の連載で扱った内容は、フェアトレードの限界でもあり、可能性でもある。もし本気でフェアを目指すなら、欧州基準でも、認証ラベルでも、PRでもなく、生産者が主導権を持つ枠組みをつくり直すしかない。
自分たち消費者もメディアの情報をすべてを鵜呑みにせずに、自分でもちょっと立ち止まって考えてみよう。流れてくる情報を楽しむのはいいけど、それがすべて真実とは限らないんだから。
フェアトレードは「いい話」として消費されて終わるのではなく、これから本当の意味で再発明される段階にいる。その変化の瞬間に、わたしたちはちょうど立ち会っているのかもしれない。


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