スタバとネスレが「フェアトレード」を買う理由
フェアトレードって、どこか「こぢんまりした善良な運動」というイメージが強かった。ところがある日、スターバックスの店頭に貼られたフェアトレード・ロゴを見て思った。「え、スタバも参加するんだ?」そう思ったのは自分だけじゃないはずだ。その後、ユニリーバ、ネスレ、マークス&スペンサー… 世界の巨大企業が、こぞってエシカル&フェアの旗を掲げ始める。
「弱い立場の生産者を守りたい」もちろん、その理念もあるだろう。けれど、企業がここまで一斉に動くのにはもっと現実的で、もっと巨大なモチベーションがある。それが、今回のテーマ。
スタバ、ユニリーバ、ネスレがフェアトレード化した本当の理由
企業がフェアトレード認証を導入すると、どんなメリットがあるか。実はかなり明確で、ちょっと生々しい。
ブランド価値の爆上がり
フェアトレードのロゴは、いわば良い人アピールの金メダル。これがあるだけで、不祥事のリスクもガクっと下がる。倫理的な企業というストーリーを獲得。若い世代からの信頼が上がる。ネガティブ報道のダメージを軽減。スタバのように都市の象徴ブランドは、とくにイメージが命。フェアトレードはその最強の防具になる。
CSR・ESG投資に強くなる
2000年代以降、世界の投資家は倫理スコアを重視するようになった。ESG(環境・社会・ガバナンス)は、投資の世界の新しい物差しだ。その結果、フェアトレード=企業価値UPの材料として扱われるようになった。つまり、企業は倫理を買い、投資家は倫理を評価し、お金が動く。この構造が一気に広がった。
認証の外部化で責任を転嫁できる
巨大企業ほど、問題が起きたときの炎上が怖い。だからこそ、「認証団体がチェックしたから大丈夫です」という責任の盾は非常にありがたい。生産地で不正が起きても、企業は「認証の基準違反でした」で済ませられる。フェアトレードのロゴが倫理の外注化の役割も果たしているのだ。
ESG投資×倫理ラベル=倫理を資産化する時代へ
ここからが本題。フェアトレードが善意の運動から資産運用の道具へと姿を変えた理由は、まさに 倫理の金融化(Financialization of Ethics)にある。
投資家にとって、倫理ラベルはリスクヘッジ商品
投資家にとって最も避けたいのは、ブランド汚損による株価暴落。そこで、フェアトレードやレインフォレスト認証などの倫理スコアはリスク低減の指標として扱われる。
倫理=金利
倫理=株価の安定性
倫理=リターンの源泉
随分ねじれた価値観だが、実際の市場はそう動いている。
企業は倫理ポイントを増やしたい
企業はESG指数に入ると株が買われやすくなる。だから、「フェアトレード認証」「森林保全認証」「労働基準のラベル」「CO2排出削減の証明書」これらのラベルを積極的に集めるようになった。ポイントカードのスタンプを集める感覚に近い。ただし、桁が違う。この倫理ポイントが、株価を押し上げ、投資を呼び込む。倫理は新しい通貨になった。
CO2排出量取引と同じ構造「証明書」が金融商品化していく
フェアトレード認証の構造は、CO2排出量取引と驚くほどよく似ている。
CO2排出量取引の構造
1.「排出削減した」という証明を発行
2. 国や企業がそれを売買
3. 取引市場ができる
4. 証明書が資産になる
フェアトレードの構造
1.「倫理的に作られた」という証明を発行
2. 企業が付加価値として利用
3. 投資家が倫理スコアとして評価
4. 認証自体が価値として扱われる
つまり、どちらも目に見えないものを証明書化し、それを市場で価値化する仕組みなのだ。この構造が動き始めると、本来の目的(CO2削減、生産者支援)よりも、証明書の価値・流通のほうが大きな意味を持ってしまう。本末転倒感は、誰の目にも明らかだ。
これは新植民地主義の第3段階と言えるのか?
植民地主義には大まかに3段階あると言われる。
第1段階:軍事による支配(植民地時代)
第2段階:契約・債務・投資による支配(新植民地化)
第3段階:倫理・環境・基準による支配(認証支配)
フェアトレード認証やESG認証による倫理の金融化は、まさにこの第3段階に近い。なぜなら、ルールを作る側が利益を得て、従う側は負担を抱える仕組みになっているから。生産者は欧州の基準に従わざるを得ず、巨大企業は倫理ポイントを集めて儲ける。倫理を盾にした力関係。国家ではなく企業が仕組みの中心にいる。その支配の空気感は、確かに新植民地主義の気配を持っている。
第6回:認証を作ったのは誰か?欧州エリートネットワークの正体
多国籍企業が国家以上の影響力を持つサプライチェーン帝国の時代へ。認証制度がいつのまにか企業の利益装置になる現状と、倫理ラベルの裏にある、政治・財団・NGO・貿易の絡みを整理していきます。


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