「靴磨きって、身だしなみの一部でしょ?」そう思っていたが、歴代首相や王室メンバーを輩出した英国の名門校・イートン校では、靴磨きは“礼節を学ぶ儀式”として位置づけられている。今回、その文化を深掘りすべく、“イートン・シャイン”の思想に触れてみた。
週に一度の“ポリッシュアワー”。沈黙のなかで磨かれるのは靴だけじゃない
最も驚いたのは、イートン校の寄宿生に課される「ポリッシュアワー」という時間。週に一度、生徒は会話を禁じられ、黙々と靴を磨く。聞こえるのは、ブラシが革を撫でる音だけ。沈黙の時間の中で、生徒たちは自分と向き合う。「靴を整えること=自分自身を整えること」という英国式の価値観が、ここに凝縮されている。
新入生には「Eton housekeeping rules」という冊子が配られ、「靴は自分で磨くこと」と明記されている。週に一度の靴チェックでは磨き残しが減点対象。上級生が下級生に磨き方を教えるという“紳士の継承文化”も印象的だ。
イートン式“イートン・シャイン”の手順
馬毛ブラシで優しく、一定のリズムで。
少量のクリームを円を描くように。10分休ませることで革が深く息をする。
再び馬毛ブラシで磨き、ツヤを引き出す。
ワックスと水を一滴だけ使い、つま先と踵にほんのりと輝きをのせる。
そしてここで、個人的に“ガツン”と来た一言がある。「光らせすぎは虚栄とされる。紳士の靴は控えめに輝くものだ」正直なところ、これまで僕は“鏡面仕上げこそ至高”と信じていた。顔がくっきり映るほどのミラーレベルに仕上がると、達成感すらあった。
しかし、イートン校の文脈では、それは“やりすぎの自己主張”=虚栄。むしろ、“節度ある、自然な光沢”こそが紳士の美学だという。英国式の価値観に触れたとき、磨き方だけでなく“靴に向かう心の姿勢”そのものを見直すきっかけになった。
静寂の中で、自分の“ノイズ”を削る
今回感じたのは、靴磨きの技術以上に、その“時間の質”にあった。ブラシの音だけが響く空間で、思考がゆるやかに整う。忙しさに流される僕らにこそ、こうした“内側を整える習慣”が必要なのかもしれない。
僕らの日常に取り入れる“イートン・シャイン”
イートン式の靴磨きを完璧に真似する必要はない。けれど、そこから学べるものは驚くほど多い。
- 靴を磨くことで、自分の生活の軸を整える
- 物を丁寧に扱うことで、所作が変わる
- “磨いた靴=相手への敬意”という英国紳士の精神を身につける
週末の5分。お気に入りの革靴にクリームをのせ、ゆっくりとブラシを走らせる。それは、靴を整える行為であると同時に、心の輪郭を整える小さな儀式だ。“イートン・シャイン”。英国紳士が受け継ぐ習慣は、僕らにも確かなヒントをくれる。


コメント