第1回 ビスポークテーラー・DITTOS
英国クラシックスタイルを
継承する、稀有なテーラー
満を持して独立した水落卓宏さん

テーラーでありカッターでもある水落卓宏さんが先月28日に独立した。テーラーの名はDITTOS(ディトーズ)。
まず水落さんの職歴を簡単に説明すると、学校法人メンズファッション専門学校を卒業後、メーカーのパタンナーとしてスタートする。その後は銀座の老舗、壹番館洋服店でテーラーとして10年間修行。さらにブリニオーニ銀座本店のマスターカッターを経て、サローネ オンダータでサルト(仕立て職人)として活躍する。そしてオープンしたDITTOS(ディトーズ)である。新進テーラーと呼ばれる同世代のなかでは遅い独立であり、それだけに周囲からの期待も大きい。

DITTOS(ディトーズ)は、南青山の静かな街並みに似合う落ち着いた雰囲気の店で、1920年代〜’40年代のアンティーク家具でまとめられている。このあたりに彼の趣味性を垣間見ることができる。店内は工房も兼ねており、大きな作業テーブルやミシン、バキューム付きのアイロン台が置かれている。また、大きめの窓があるため、自然光のもとで生地の色をチェックすることができる。オーダーするお客にとっては有り難いことだ。
ちなみにDITTOSとは三つ揃い服、スリーピースの原型を表す古い言葉で、1740年代まで遡ることができる。この店名からもわかるように、英国を源流とする正統派のクラシックスタイルを継承する、数少ないテーラーといってもいい。

ビスポーク テーラーのこだわり

DITTOS(ディトーズ)では、ビスポークとハウススタイルオーダー(パーソナルオーダー)の2種類のオーダーを用意している。ビスポークはお客様の求めているスタイルを話し合いながら導き出し、これまで彼が積み上げてきた高い技術力と経験を最大限に反映させたフルオーダーである。
前述したように彼はテーラー&カッターなので、採寸、型紙製作、生地の裁断、体型補正、仮縫い、縫製のすべての工程を行っている。テーラーといってもマシンを多用するところもあり、お店によって内容は様々だが、彼は手縫いの工程が多いことで知られている。手縫いは付加価値を高めるために行うのではなく、理想とする最上のスーツを作る手段として手縫いの箇所が多いというだけなのだ。つまり人の体は曲線が多く立体的で複雑である。それに真面目に対応するためにはどうしてもアイロンワークや手縫いの工程が増えてしまうのだ。

英国伝統のオールドクラシックが得意のスタイル

スーツのスタイルについてだが、ビスポークなので、クラシコイタリア風の柔らかな雰囲気でお願いすれば、体型や顔立ち、確立しているスタイルを考慮してスーツを作ってくれると思う。ただし私見でいうと、英国伝統のオールドクラシックスタイルこそ、彼のもっとも得意とするスタイルなのである。
一言でいうと1930年代〜’40年代の男性的なグラマラスなスーツスタイルだ。現在のナローラペルのモダンな既製スーツとは対照的に、本物のエレガントさが漂う大人のスーツである。もちろん見せかけだけのクラシックなスーツではない。水落さんは過去のサビル・ロウの老舗テーラーの裁断書や日本の業界専門誌として知られる「洋装」の初期の型紙なども研究・理解しており、それらの長所も短所も把握している。さらにメンズファッションの歴史にも造詣が深い。一時期注目された、’30sスタイルの既製スーツとは違うのである。

ビスポークのツーピーススーツで40万円〜。納期は3〜4ヶ月。

完成度の高いハウススタイルオーダー

ビスポークとは別にハウススタイルオーダー(パーソナルオーダー)を展開している。こちらは、水落さんが引いた型紙をベースにして、縫製はこの業界では老舗の花菱縫製が手掛けている。花菱縫製と水落さんの関係は5年にわたる付き合いがあり、技術交流を含めて高い信頼関係で結ばれているのだ。
花菱縫製というとイージーオーダースーツのイメージがあるが、技術的なポテンシャルは非常に高く、水落さんが求めている技術的かつデザイン的な要求を理解し、できる限りスーツに反映してくれたそうである。
さっそくサンプルとなるゲージに袖を通したところ、英国スタイルをベースにしているが窮屈という感じはしなかった。デザインを見ると、ゴージラインは高過ぎることはなく、ラペルの幅も狭過ぎない、ちょうどいい中庸的な英国スタイルである。これならビジネススーツとしても十分に着用できる。他社のスーツと比べないとわかりにくいが、ジャケットの腰ポケットが通常よりも外側に配されている。これは昔ながらの英国スーツの特徴だ。芯地は接着芯ではなく毛芯、増芯を入れて、胸の美しさを作っている。襟をひっくり返して見ると、胸の立体的なボリュームを出すためにアゴグセを入れている。スーツ好きが見ても納得できる作りだと思う。
スリーピースはハイライズ(股上の深い)のトラウザーズとなり、ブレイシーズ(サスペンダー)仕様となる。デザインはサイドアジャスターかバックアジャスターが選べる。ツーピースは股上の浅いベルト仕様も用意されている。
トラウザーズはノープリーツ、ワンプリーツ、ツープリーツが選べ、それぞれインかアウトを選択できる。ツーピーススーツで10万5000円(税込)〜、スリーピースで13万1250円(税込)〜とお手頃価格なので、初めてオーダーする人にとってもおすすめである。
生地はハリソンズ オブ エジンバラやエドウィンウッドハウスをはじめとする英国生地を中心に、ナポリのマーチャントであるカチョッポリも取り扱っている。春物のコットンスーツならカチョッポリはおすすめ。
ビスポーク、ハウススタイルオーダーともに、水落さんらしさを反映させたスーツである。彼の真摯なスーツ作りを一度味わってもらいたい。

【スーツの価格】
ビスポーク
ツーピーススーツ42万円(税込)〜
納期:3〜4ヶ月後

ハウススタイルオーダー
ツーピーススーツ10万5000円(税込)〜
スリーピース13万1250円(税込)〜
納期:3〜4週間後

Bespoke Tailor Dittos.
(ビスポークテーラー ディトーズ)
東京都港区南青山4-14-2 201
TEL.03-6438-9313
営業時間:11:00〜20:00
店休日:火曜日、第2・第4日曜日(予約優先)
要予約
http://www.dittos.jp/

文:倉野 路凡 写真:猪又 直之