井戸 多美男
ディテールの仕上がりにも魅了されるサンプラチナにこだわった伝統の職人技
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井戸多美男氏

 アイウェアはもはや、視力矯正の道具としてだけでなく、個性を主張するファッショングッズといえます。新素材を用いた斬新なデザインが話題を呼び、著名なデザイナーが手がける作品の人気も高まってきています。
 一方で、伝統的な素材と技法を用いて、熟練の職人が作り出すクラシカルな手作りのアイウェアも注目を集めています。井戸多美男氏も伝統を受け継ぐ熟練職人のひとりとして高い評価を受けています。  井戸多美男氏は眼鏡職人だった父親の井戸久秋氏を師と定め、昭和38年から約10年間にわたり修業に入りました。その後も眼鏡作りに没頭し、現在も非常に複雑で数多くの工程を一人でこなしています。その職人技は伝統的な製法や、今ではほとんど見ることも聞くこともできなくなった古の製法などを受け継いだものです。メタル眼鏡職人の中でも突出した存在であり、その作品は非常に完成度の高いものとなっています。
 また、近年ではほとんど使われないサンプラチナ製の眼鏡作りを得意とする数少ない眼鏡職人でもあります。サンプラチナはニッケルを主素材にした合金で、耐蝕性に優れ、研磨するとやわらかい白金色に似た光沢を呈し、長時間大気中に放置してもほとんど変色しません。しかも人体に無害で親和性にも優れていることから、歯科や整形外科の材料などにも広く使われています。けれども加工に非常に時間がかかるだけでなく、熟練の技術が必要になります。なかでも最終工程における研磨技術は最も重要で、サンプラチナの奥深い光沢を出すまでに通常の3倍以上の時間をかけて一本ずつ丹念に磨き上げなければなりません。

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 井戸多美男氏の作品の特徴は、サンプラチナにこだわりながら、セルロイド枠とのコンビネーションフレームやセル巻きブリッジなど、作られなくなって久しいディテールを復活させた点にあるといっていいでしょう。伝統的なデザインを踏襲しながらも他の作品には見られない工夫が加えられていますが、そこには井戸多美男氏ならではの技法が活かされていることはいうまでもありません。
 最近はレトロモダンという言葉をよく耳にしますが、井戸多美男氏が作り出すアイウェアの数々は、単なるレトロモダンなデザインが魅力ではありません。熟練の職人ならではの技とこだわりを随所に見ることができる、手作りの逸品なのです。一度愛用したら、必ずやその作品のとりこになるに違いありません。

文:有澤 隆 商品写真:平野 多聞  写真のペンケース、デスクマット(グレンロイヤル/ ディセンタージュ 青山本店 TEL.03-5466-34345)