秘めた実力を知れば持つ喜びが大きくなる
実力派腕時計ブランド
第2回 オーガスト・レイモンド

写真左:ブギ 10万5000円
写真右:メガブギ 限定クロノグラフ 26万2500円
精巧な手作りの味わいを持つ機械式時計
オーガスト・レイモンド

創業者オーガスト・レイモンド氏

1910年代の工場の様子が描かれている。創業から10年余りで急成長した。

オーガスト・レイモンド社が取得した数々の特許や実用新案、意匠登録の証書。

100年以上受け継がれる時計作りへの情熱

フランスの国境沿いに伸びるスイスのジュラ渓谷は、古くから時計産業が盛んな地域として知られています。そのジュラ渓谷のトラメランにある小さなアパートで、1898年に若干27歳の青年オーガスト・レイモンドが数人の時計職人を雇い入れて時計製作工房を開設しました。これがオーガスト・レイモンド社の創業となりました。1910年には100人以上の従業員が工場で働くほどの時計メーカーに成長し、オーガスト・レイモンド社のムーヴメント製造部門が製造する、高品質で低価格のムーヴメントはいくつもの時計メーカーに供給されました。
2度にわたる世界大戦を乗り越え、順調に成長を続けてきたオーガスト・レイモンド社も、創業者が世を去ると経営が転々とすることになります。そして1970年代後半からスイス時計産業を襲ったクォーツ・ショックの嵐は、オーガスト・レイモンド社にも苦境の時代を強いることになりました。そんなオーガスト・レイモンド社が第2の誕生を祝うことになったのは1989年。同じトラメランに工場を持つ時計メーカーのデザイナー、トーマス・ルーズリーをディレクターに迎えたときからでした。ルーズリーはフランス文学と美術史の学位を持ち、ミュージシャンとしても活動する異色のデザイナーで、そのとき彼は、創業時のオーガスト・レイモンドと同じ27歳でした。トーマス・ルーズリーは「古き良き時代」の機械式時計へ、新しい生命を吹き込むことに挑戦します。そして2年と待たずに、オーガスト・レイモンドの新しいコレクションが登場することになりました。

オリジナリティあふれる感性を表現するジャズコレクション

ミュージシャンとしても活動していたトーマス・ルーズリーが発表したコレクションのテーマは「ジャズ」。それはオーガスト・レイモンド社の歴史と同じ時代を生きたこの音楽への賛辞であるだけでなく、創設者オーガスト・レイモンド自身がこよなくジャズを愛していたことによるものです。オーガスト・レイモンドは行きつけのジャズバーで、水の入ったグラスの中へ自分の時計を落として周囲を驚かしていたといいます。彼はフルレバーシステム、ショックプルーフ、ウォータープルーフなどの、最初のパテントホルダーのひとりとして知られていますが、その性能を誇示するために、こうした洒落っ気たっぷりの行動をとっていたといいます。

トーマス・ルーズリー氏

雪深いジュラ渓谷にある工房と、ジャズ発祥の地といわれるニューオリンズ。時計職人とジャズミュージシャン。それらはまったく違う世界に思われますが、美しさと機能性のバランスを追求する時計デザイナーには、高度な技術とともに芸術的インスピレーションをあわせ持つことが要求されます。オーガスト・レイモンドやトーマス・ルーズリーは、ジャズと時計の創造性に共通点を見出したのでしょう。「単なる時計ではなく、命を吹き込む時計作り」が、オーガスト・レイモンドの「ジャズコレクション」の基調になっているのです。

ジュラ渓谷の奥深くに位置するトラメランの風景

伝説の名機、ユニタスムーヴメントを生んだ実力派

オーガスト・レイモンドが今日まで名声を維持している要因のひとつに、1920年代に開発された高品質で低価格な手巻きムーヴメントがあげられます。それが今でも機械式腕時計愛好家の間で人気が高いユニタスです。もともとは懐中時計用に作られたことから、大きな地板(プレート)を持ち、モジュールが載せやすいなどの利点があります。なおユニタスというのは、後にオーガスト・レイモンドのムーヴメント製造部門が独立したムーヴメントメーカーの名前です。またユニタスムーブメントは大型化している最近の腕時計にもマッチすることで、ムーヴメントメーカーの再編後の現在も、その名を冠したムーブメントの製造が続けられています。
現在オーガスト・レイモンドがラインナップしているモデルのほとんどはETA社製ムーヴメントを使用しています。一部にストックされていたユニタスのオールドムーブメントを再仕上げして搭載した限定モデルもあり、そのひとつが「ブギ」というモデルで、1960年代に作られたユニタス6425をリファインして搭載しています。クラシックな雰囲気が漂う「ブギ」のデザインとユニタスのオールドムーブメントの組み合わせは、多くの腕時計ファンを魅了しています。

現代の時計には感じられなくなったアンティーク時計に通じる手作り感が魅力

オーガスト・レイモンドはユニタスを製造したという名声や、隆盛を極めた時代の遺産を大切にしながら、新しい時代にふさわしい技術革新にも力を入れています。その時計作りの手法は機械に頼った大量生産でなく、熟練職人の手作業による組み立てと、ディテールの隅々にまで手を抜かない仕上げに集約されています。オーガスト・レイモンドはまさしくアルチザン(職人)集団なのです。また手作業が中心であるために、完成したひとつひとつの製品は高品質でありながら、まったく同じというものがありません。それもまた、オーガスト・レイモンドのならではの趣になっています。
また最近は巨大資本によるグループ化が進むスイスの時計業界にあって、オーガスト・レイモンドは独立系ブランドであることに誇りを持って時計製作を行っています。広告に巨額を投じるようなこともありません。それはイメージではなく、製品を売るという明確なポリシーがあるからですが、そのことが品質の高さに対してリーズナブルな価格設定ということに結びついているのです。オーガスト・レイモンドにとって「最上の広告は、オーガスト・レイモンドの時計を満足と喜びを持って着用し続けていただけること」にほかなりません。派手さに惑わされることなく、ほんとうにいいものを探している人にこそ、おすすめしたいブランドのひとつです。

お問合せ:ダイヤモンド TEL.03-3831-0469 http://www.diamond.gr.jp/

ユニタス社製のオールドムーブメント「ユニタス6425」をリファインして搭載した「ブギ」。

文:有澤 隆 イメージ写真:平野 多聞