シェルマンで見つける アンティークの愉しみ Part12
アーリーモデルから感じる時計の歴史

これまで、この連載ではアンティークウォッチ&ジュエリーをテーマにいろいろなブランドの様々なモデルを紹介してきました。
1940年代〜1950年代の腕時計の黄金期と呼ばれる、誰もが気軽に持つことできなかった時代に製作された時計は、その製作費も現在とは比較にならないほど高価で、金属素材からよく吟味され、完成度も高く、魅力的な時計が多いというお話もしてきました。
今日はそうした黄金期より少し前の、腕時計の黎明期とも呼ばれる時代につくられた、興味深いアンティークウォッチをいくつかご紹介します。
まずは、エッジの入ったシルバー製ケースの時計を見てください。これは1920年代製の時計ですが、ひとつ気になることがありませんか? そうです、リューズがありません。この時代にはまだ自動巻きの時計など登場していないのに、どうして?
……ご安心ください。ねじ込み式のベゼルを外すと、リューズが顔を出します。
これは、ねじ込み式ケースのなかに時計本体を収納し、ベゼルを開放して時刻合わせやゼンマイの巻上げをおこなうという最初期の防水構造を持つアーリーモデルなのです。
この時代には、腕時計はまだ一般的なものではありませんでした。宝飾時計としてのレディースモデルがメインで、男性の多くは懐中時計を選んでいた時代です。腕時計自体は存在していましたが、その故障の多さから、まだ実用的とはいえませんでした。
ポケットに入れる懐中時計とは異なり、腕時計を使用するということは、機械の大敵である汗や埃に直接さらすことを意味します。そこで、こうしたツーピースケースの防塵モデルとよばれる時計が開発されました。ロレックスなどの防塵ウォッチが特に有名ですが、この時計はムーブメントからエベラール製であることが分かります。
さらに美しい陶盤のダイヤルからは"BRISK&Co."というシンガポールのショップの名前が確認できます。アンティークウォッチでは、よくこうしたダイヤルに販売ショップ名や、ブランドと販売ショップのダブルネームが併記されているものをよく目にしますが、これは当時の商習慣ではよくあったことで、まだ知名度の低かったブランドの名前よりも、宝飾店名が入った方が商品の信用と信頼を高めることにもなったからといわれています。
当時としては画期的だったこの防塵ウォッチも、いちいち外側のケースを開かなければ時刻調整やゼンマイが負けないという、時計としての操作性や機動性不足からか、時代とともに少しずつ姿を消していきました。まさに、腕時計の進化の歴史を感じることのできる、アンティークならではの一本といえるでしょう。

そして、もう一本面白い時計がここにあります。リューズはついているけど、どうしてこんな変な位置に? という時計です。それもそのはず、よく見るとこれはポケットウォッチにラグを取り付け、腕時計に仕立てたものです。
しかも前述のエベラール製のアンティークウォッチと同様、つくられてから100年近く経過しているとは到底思えない素晴らしい状態の陶製文字盤にはショップウォッチであったことを意味する"BAILEY BANKS&BIDDLECo."という表記が確認できます。
記載されているベイリー・バンクス&ビドゥルはアメリカの老舗高級時計宝飾店です。当時はスイスのパテック・フィリップやロンジンなどに別注した特別仕様時計の販売をしていたそうです。
裏蓋からのぞく、高品質の美しいムーブメントとケースサイドの凝った装飾などからは、いかにも嗜好品、というような懐中時計らしい手間隙をかけた丁寧なつくりが感じられます。
いつ、この懐中時計が腕時計へのコンバージョンウォッチとして仕上げなおしされたものかはわかりませんが、もしかしたら、懐中時計から腕時計へと移り変わる時代にあわせて、当時のオーナーが、こうした改造にいたったのかもしれません。
お気に入りの時計を他のどこでも販売されていない、時分だけの時計にカスタマイズし、愛用していく。アンティークにはこうした愉しみ方もあったのだと気付かされる、とても興味深い時計です。 クッションケースや陶製文字盤を使用した素朴で愛らしいアーリーモデルと呼ばれる時計。それはまさに、腕時計黎明期の新鮮な感覚を与えてくれる、もっともアンティークらしいアンティークウォッチと呼べる存在なのかもしれません。

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