竹川圭のshoe人十色 第15回:リファーレ
「僕は裏方でいいんです。職人を取り上げてくださいよ」」

オーナーの松添康太郎さんはそう言って渋ったが、
そこはそれ、僕に落とせないターゲットはいない(笑)。
職人にも登場してもらうことで手を打った。
この業界は職人がいなくては成り立たないのだから、もちろんリスペクトする。
だけど有能な若手が育ちつつある今、
彼らの活躍の場を創造する役回りが俄然重要になってきているのだ。

当たり前のことがなおざりにされていました

 修理職人として、何軒も渡り歩いてきたという柴谷雅一。それだけ聞くと腕一本で生きたかつての職人のようだ。朴訥とした風貌もそれらしい。こりゃ、話を引き出すの、大変そうだなぁなんてエムッ気のある僕は内心にんまりして取材を開始した。ところがいったん口を開くと、期待を裏切って話す、話す。
「この世界に入るきっかけは多分、音楽です。かつての音楽って、靴が大切な役割を果たしていたと思うんです。ビートルズのサイドゴアブーツ、パンクのマーチン、ランDMCのスタンスミス…。ね? で、靴っていいなって思って大学を出た後、販売を経てエスペ(日本で最も古い民間の靴学校)に入りました」
「クラシックな靴の魅力にハマりました。修理なら、いろんな靴に出会えるでしょ」
「これまでの修理って、靴に愛情が感じられないんです。例えば出し縫い。元のミシン目なんか無視して、ダダダッて掛ける。あれじゃウエルトがすぐにダメになっちゃう。現状復帰が大前提じゃないですか」
「リファーレでは、私たち職人が接客に当たります。修理した人間がお客さまに仕上がりを確認してもらう。喜ぶ顔を見れば嬉しいし、クレームは真摯に受けとめる。それって当然のことだと思うんですよね」
 台詞が羅列してしまったが、しょうがない。この間、僕はうなずく程度でほとんど言葉を発していないのだ。
 態勢を立て直そうと頭を整理していると、突然オーナーが参戦してきた。
「当店は職人が主役です。靴も販売しますが、その接客も柴谷らが行います。靴に精通した人間です。これを使わない手はない(笑)。工房を全面ガラス張りにしたのも、職人を身近に感じてもらい、そして修理の実際を見ていただきたいからです」
 リファーレの面子は、揃いも揃ってアツい。

松添さんは新たな職人像を模索している。「確かな腕は大前提。これからの職人はコミュニケーション能力がなければ務まりません」

限りなくケミカルを排除し、代わりに革に潤いを与えるコラーゲンと、劣化を防ぐビタミンEを配合したブートブラック。その名を一躍有名にしたのはポリッシュだった。驚くほど簡単に光るのだ。ブラウンだけで14色揃うなど、ニーズに応じたきめ細かいラインナップも魅力だ。クリーム、ポリッシュともに1050円。

高山純一さん手掛ける「シュー リパブリック」。高山さんはイギリスの靴学校、トレシャムインスティテュートで製靴技術の最高資格に当たるシティ&ギルド・デザイン&パターン・レベルVの資格を取得したヒト。本文にあるカスタマイズ・サービスはこちらで行われる(ex.半カラス仕上げ2100円)。

BOOT BLACK(ブートブラック)

「何年もかけてようやく一人前ってのは本来おかしいんです。ただきちんと教えていなかっただけなんです」と語る松添さん。柴谷さん(上)の右腕として働く深谷哲郎さんはまだ 20歳だ。

大手をその気にさせた非凡な商才

 松添は、このたびの紳士靴ブームの立役者となった店を経て、独立した。
「東京は銘靴が揃う有数の都市となりました。次の一手を仕掛けるにはいい頃合いでしょう。30(歳)という節目も背中を押しました」
 靴修理業界にはユニオンワークスの中川というスターがいる。アンティークの家具を設えた店はイギリスに迷い込んだような錯覚に陥らせる。靴修理を誇れる職業に、という思いで隅々までこだわり抜いた彼の美学はその職業に対する価値観を向上させた。
 リファーレは趣が180度異なる。店は中も外も白で覆われていて、清潔感が漂う。入り口には黒板を使った手書きのメニュー表がある。
「我々は間口をもう少し、広げたいと思いまして」
 それなりの靴をきちんと履こうという意識は確実に浸透している。松添の目の付け所は時機を得て、いい。職人の起用方法といい、このヒト、商才があるのだ。
 僕がリファーレを注目するきっかけは、ブートブラックというシュークリームだった。何と、日本最大手のコロンブスを説き伏せ、共同開発にこぎ着けた商品なのだ。
「クリームの伸びを良くするためにはポリ系の原料が欠かせません。これ、何とかなりませんかと尋ねたところ、では、粒子を細かくしてみましょう、と。粒が細かくなれば当然、摩擦が減り、ポリの力を借りる必要はなくなる。コロンブスの技術力は他に並ぶものがありません。できないことはないんです」
 この秋には、アッパーやソールの色、あるいはコバの処理など細部を「その場で」カスタマイズするサービスを開始するという。これまたユニークだ。
 本当にモー、頼もしい男が現れたものだ。

プロフィール
りふぁーれ 07年4月、シューズ・サロン&リペアをコンセプトに恵比寿にて創業。現在は有楽町と溝口の丸井にも出店している。修理例/トップリフト2835円〜、オールソール8400円〜。アドレス/〒150-0022 東京都渋谷区恵比寿南2-7-1 TEL.03-5768-1373 OPEN11:00〜20:00
http://www.rifare.jp/

企画・取材・文:竹川 圭 写真:是枝 右恭