竹川圭のshoe人十色 第14回:鹿子木隆
「クラシックに連なるスニーカーが創りたい」

リズムを支えるスタッフの面々。手前は新人の長島大輔。天然キャラでいじられまくっています(笑)。奥の真方寛は学生時代の友人で、アパレル業界で活躍していた。関係ないけど、このヒトのブログがなかなかに面白くて素敵。

本当は持ちたくないんだけど、会社員ならまだしもフリーにとっては致命傷だから仕方なく使っているのが携帯電話だ。「仕方なく」の理由は、疑うことなく便利を甘受することに異を唱えたい青臭い性分がひとつ。もうひとつは機械音痴の僕でなくても手に余るだろう過剰に搭載されたスペックへのゲップである。中でそこそこ満足しているのがauデザインプロジェクトの端末だ。付加価値としてのデザイン性を見直す機運はさまざまなマスプロダクトで見られるようになってきているが、好例だろう。少々前置きが長くなったけど、この観点から靴にアプローチしてみせたのが鹿子木さんである。

コピーが溢れたデビュー作

 レコードコレクターの鹿子木にとって、イギリスは憧れの国だった。大学卒業を目前に控えて出した答えは、就職せずに渡英したい――。親を説得する材料が靴学校への進学、だった。ご存じ、コードウェイナーズ・カレッジである。
 入学してみるとクラスの7割は経験者だった。英語も話せなかった劣等感をバネにコツコツと勉強したという。彼には、そんな生真面目さがある。ところが2年制の学校を1年で辞めると、「Tシャツを数えるバイトとかテキトーなことをして、レコードショップ巡りをして過ごしていた」そうで、これもまた、らしい。
 当時知り合ったのが木村大太。英在住で、業界の若手の間では半ば神格化されているデザイナーである。彼のツテで「ジョージ・コックス」に生産をお願いしたサンプルをきっかけに、デビューを果たすことになる。
 その靴はシューレースを踵に配したかつてなかったデザインで、日本で紹介されるとコピーが溢れるほど人気となった。ロンドンの地下鉄でふと思いつき、その場でスケッチした絵がカタチになったそうである。

アメリカ東海岸のファッションが大いに注目される今季、まさに気分なホワイトバックス。踵に配した刺繍が、そんな気分を加速させる。このさり気なさが鹿子木の真骨頂だ。4万4100円。問い合わせ先:リズムTEL.03-5411-7876

バンド感覚を狙ったドレスシューズ

 そんな鹿子木が昨年春、ドレスシューズのラインを立ち上げた。またも素直じゃない性分が騒いだのかと冷やかし半分でのぞいたら、これがいい。一言で言ってしまえばメンズ市場を席巻するアメリカ東海岸スタイルの足元に格好の靴だが、丸みを帯びたシルエットはオンにもオフにも履ける。その加減が絶妙なのだ。製造レベルの高さも大いに貢献している。紳士靴の名門ファクトリー、宮城興業の現場を取り仕切る荒井弘史と組んだと聞いて納得した。
 ブランド名を「ナイブス&ケチャップス」といい、ステーキをカットするナイフが職人で、味付けのケチャップがデザイナー。つまり職人とデザイナーが二人三脚でつくるスタイルを表しているそうだ。
「エイジングの魅力に今さらながら気付いたのもあるけど、何よりひとりでは限界のあることに挑戦したくなった。面白いヤツがいれば職人もデザイナーも、どんどん仲間に入れていこうって思っているんです。バンドを組む感じかも。だからナイフもケチャップも、複数形」
 靴業界は今、ヘタな業界よりよほど優秀な若手が揃っている。彼らの才を生かそうとしている点で、鹿子木のスタンスはこよなく正しい。
 ここのトコいい加減あれはやめてくれといわれていたフレーズがある。天邪鬼がそれで、何でも親戚にからかわれたそうである。だけど「ナイブス&ケチャップス」の目の付けどころといい、マスプロダクトの新たな可能性を模索するスタンスといい、世に迎合することのない「天邪鬼」ゆえの答えでしょう(笑)と、やっぱり思うのだ。

棚に並んだ新作のスニーカーなど。レースステイのパターンを見ればわかるように、鹿子木の感性はユニークだが、デザインとして昇華している。

日々使うアイテムこそ使って幸せになれるモノを

「リズム・フットウェア」の名で展開するオリジナルは、スニーカーを核としたコレクションだ。イギリスで古典的な靴づくりを学んだにもかかわらず、「最先端の技術をリスペクトします」と言い放つ。その天邪鬼っぷりが面白いなぁと思っていた。
 アメリカン ラグ シーやフリークストアなど日本のファッションシーンを語るときに欠かせないショップとのコラボも盛んだが、一般的なトレンドセッターのイメージと違い、そのコレクションに尖がった印象はない。アバンギャルドなモノづくりへのアンチとして生まれた、リアルクローズという概念の流れに乗っているのは確かだ。しかしそれだけじゃない何かを感じる。
 呑み友達になってしまうとかしこまった話ができなくなるのだけど、改めて、それにしても何でスニーカーだったの?と質問してみた。
「大衆的なところがいい。そして日々使うアイテムこそ、使って幸せになれるモノがいい」
 それって今のマスプロダクトと同じ考え方?
「そうかも。アマダナとかいいと思うし」
 生活にはリズムが必要でしょうと名付けたブランド名に、その思いはすでに込められていた。心地よいリズムが、生活に潤いを与える。心地よさは機能一辺倒なプロダクトからは生まれない。思わず手にしたくなるデザインが大切だ。そして生活に欠かせないのは10万円もするドレスシューズじゃない。スニーカーなのだ。
 何枚も重ねたレースステイや、踵をVの字に落としたトップライン。彼のつくるスニーカーはとても個性的だが、奇を衒うのとは異なる。だから、定番としてずっと売れ続ける。
「オールスターやエアフォースのような、クラシックに連なる新しいスニーカーがつくれたらと思っています」

プロフィール
かのこぎたかし 大学卒業後、単身渡英、コードウェイナーズ・カレッジ入学。「ジョージ・コックス」でつくった一足が日本有数のインポーター、ジャック・オブ・オール・トレーズの目にとまり、デビューを果たす。
http://www.rhythmdesigns.com/

企画・取材・文:竹川 圭 写真:是枝 右恭