竹川圭のshoe人十色 第13回:曽田耕

工房は、廃材などを集めて少しずつつくり込んで行ったという。実に曽田らしい空間だ。

「大量生産・大量廃棄という仕組みに甘んじる人々を軽蔑します」
靴をメインとしたファッションアイテムの業界誌が、僕の社会人の振り出しになる。
ファッションに特化した日経MJといったノリで、
偉いヒトのインタビューやマーケティング動向のレポートが主な仕事だ。
今では想像もつかないおカタい編集部員だったワケだが(笑)、
そこで僕は、現在の手製靴ブームを引っ張る若手たちに出会うことになる。
曽田さんは、このたびのブームの背景にある彼らの思いを純粋培養させた男といっていい。
靴をツールとして、世の中に物申す

 差し向かいで話していると、とても楽しい。お茶をすすりながら、何時間経っても話題が尽きることはない。酒を呑まずばヒトにあらずと思っている僕にとっては(笑)、実にレアなケースだ。
 多分、憧れを、ひょいと実現してしまっているからだろう。
 個展を通してお客と接し、足を測り、靴をつくる。専門の訓練校で靴づくりを習得すると、ほどなくこのたびの手製靴ブームの原点となるスタイルを構築して見せた。
 次の一手として始めた既製靴(といってもすべて自分の手でつくっているが)の販売は、だから意外だった。
 正直、経済的な面もありますという。結婚して(奥さんの京子さんは僕が以前書いた記事で曽田さんのことを知ったそうで、ちょっと嬉しい)、二人目も授かった。
 採寸する手間が省ければ、その分生産能力は上がる。それはもっともな、そして決してなおざりにできない部分だ。わかるけど、でもどうなのぉと思っていた僕のモヤモヤは、写真展を開いたと聞いてすっと晴れた。
 撮り溜めた写真を一冊にまとめたその巻頭にはこんなメッセージが添えられている。
――昨秋、雨の金沢を散歩していたときのこと、木戸の風合いがきれいだな、石段のコケがいい具合だな、このハダ感をもちかえりたいな――
 個展や注文靴という形態、それどころか靴をつくるという行為さえ、曽田にとってはツールに過ぎない。それらを通じて表現したいのは、自らの思いだ。つまり彼は職人というよりもむしろ、作家、なのだ。すべてが思い通りに仕上げられる点もいい――既製靴を始めたもうひとつの理由も、それを裏付ける。
 サイトをのぞけばわかるが、曽田は世の中にとっても怒っている。大量生産・大量廃棄という仕組みが最たるもので、自らの手で靴をつくり始めたのはそのアンチテーゼだ。だからキレイにパッケージされたまったく隙のない商業製品を笑うように、曽田の靴は実に素朴だ。その靴に言葉はいらない、というのは言い訳で、「味がある」以外の表現が思いつかない。

曽田が最初につくった、そして長らく定番として人気を博す靴は平面の革を立体にする際に欠かせない木型を使わない。歯切れの革を縫い合わせることでカタチにしていたのだ。そんな靴づくりのエッセンスは今も残っている。

隠れた人気商品が、こちらの鞄。七夕の編み飾りのような切れ込みが入ったこの鞄、一枚の革でつくられています。1万6000円。

この圧倒的に肉厚なレザーこそ、真骨頂。型にはめて靴に成型するのだが、極厚レザーはそれだけではあまりに硬く、履物としての態をなさない。曽田は最後の仕上げに1週間かけて油を入れて揉むという。5万6000円(予価)。

身の回りのものを工夫してつくった少年時代

 曽田は子供のころから身の回りのモノは自分の手でつくってきた。洋服、陶器、パン。おもちゃを買ってくれない代わりに、おもちゃをつくる道具と材料を与えてくれる母親だったそうで、唯一、納得できなかった靴づくりに魅了されて今がある。
 というところまではこれまでに聞かされていたことなのだけど、ハタと気付いた。お母さん、すごくない? ってか、「耕」ひと文字の名前も。
「両親ともに大学関係の仕事をしていましたが、『大学の学問にはかつてのようなワクワクがなくなった』なんていうヒトでした。農家と直接契約するなど市民活動にも熱心でした」
 仕組まれた感があると笑う。しかし感謝しているとも。
「僕がやろうとしていることに祖父などは難色を示していました。母がかばってくれていたと、後に知りました」
 マンスリー・エムという雑誌の編集部に勤めているころ、一度だけ個展にお邪魔したことがある。その日の夜、曽田は京子さんに「久しぶりに会ってがっかりした」と話したそうである。どう見えたのかしら。
 再会の感想が少々気になるけど、先にいっとくとね。曽田さんのようにシンプルに生きられるヒトはそうはいないんですからね。

プロフィール
そだこう 職業訓練校「台東分校」を卒業後、アルバイトと並行するカタチで表参道の路上に靴を並べて、注文をとるように。98年、初の個展を開催、大いに注文が入り、「コー」
http://www.sodako.com/)の名で本格的に旗揚げ。個展を通した対面販売を基本としていたが、05年には既製靴のコレクションを発表、現在に至る。

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企画・取材・文:竹川 圭 写真:是枝 右恭