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笑暮屋

2015年5月30日
笑暮屋

人情と技能がたっぷり注ぎ込まれた
Made in TOKYO、笑暮屋

 

都内に残っている唯一の都電である荒川線。最近は海外からのバックパッカーの方も多く見かけるようになった終点・三ノ輪橋駅の前から下町情緒溢れるアーケード街をテクテク歩いてゆくと、3、4分でもう次の荒川一中前の停留所となります。駅前にある踏切を渡ったすぐの場所にあるのが今回ご紹介する「笑暮屋」、これで「えぼや」と読みます。

 

我が国唯一のエボナイトメーカーの直営店

 

笑暮屋は筆記具などエボナイトで作られた商品を取り扱うお店で、要は素材名から語呂合わせした店名な訳です。経営しているのは店舗から2軒隣にある、日本で現在エボナイト製造する唯一のメーカー「(株)日興エボナイト製造所」。この地域にはまだまだ多く見られる典型的な家族経営の会社で、現在は3代目の遠藤 智久氏が社長。お店での接客は奥様の佳子さんが主に行っています。2009年にウェブショップ「下町のエボ屋さん=笑暮屋」としてまず開業し、念願の実店舗をオープンしたのは2014年の6月ですので、まだ誕生して間もないお店です。

 

エボナイトとは天然ゴムに硫黄を混ぜた上で加熱し作られる、合成樹脂の先駆け的存在の素材です。1839年にアメリカのチャールズ・グッドイヤー氏によって発明され(因みに靴の底付けでお馴染みのグッドイヤー・ウェルテッド製法を発明したのは彼の息子)、黒檀=EBONYと雰囲気が似ていることからこう命名されました。弾性が少なく、とても堅牢なうえ、加工精度が長期間維持でき、絶縁性、耐酸・アルカリ性、機械的強度、また耐湿性にも抜群に優れるのが特長です。

 

そのため以前は電気のスイッチやバッテリーケース、ボウリングの玉、それに潜水艦の敷板などなど、エボナイトは様々な分野に広く用いられていました。今日でも万年筆の軸や木管楽器のマウスピース、ギターのネックやピック、喫煙用のパイプの口元、ナイフのハンドル材など嗜好品としての用途には根強い人気があります。しかし堅牢である分成型が容易でなく、また製造コストが高いこともあってか、現代では多くの分野で石油由来の合成樹脂、例えばアクリル樹脂などに取って代わられてしまいました。

 

会社の存亡を賭け、製品化を支えた地元の底力

 

エボナイト需要の激減で会社・工場ともに存続の危機に立たされた(株)日興エボナイト製造所が打って出た策が、最終商品の開発・製造・販売に自ら乗り出す作戦だった訳です。佳子さんによると、最初の着眼点になったのは本社事務所に何気なく置かれていた色付きのエボナイトだったそう。「黒と茶褐色のイメージしかなかった素材なので、これをもっと綺麗に作れれば絶対に道は開ける……そんな必死の思いでした」 カラー化とマーブル模様化が2008年に成功したのを契機に、万年筆の製造・販売へと駒を進めることになった訳ですが、まだまだ苦労は多かったようです。

 

「これまではあくまで素材メーカーでしたから、製品化はもう何から何まで手探りの連続。軸を磨き込んだ最終工程でトラブルが生じ何本も無駄にしてしまうなど、悔しい経験も度々ありました。自分達で作っているものなのに、実はその特性を全く知らなかったのだとつくづく思い知らされました」。そんな時に暖かい手を差し伸べてくれたのが地元の方々。荒川区の青年経営者の会などを通じて人脈やノウハウ、それに部品などを得る中で、技術も一気に向上してゆきます。

 

「もうご引退なされた職人さんから、軸の成型に用いる轆轤を入手できただけでなく、技術指導までみっちり受けることができたのは、特にラッキーでした。東京の下町エリアは、かつて万年筆の部品を製造していた工場が多かった縁ですね。『自分の技能が継承できる!』ってその方も張り切っていましたから」 2009年のウェブショップ開始直後、区の産業展で多くの万年筆好きの方が喜んで買ってくれたのを目にした時、進むべき道はこれで間違っていないとようやく確信できたとのことです。

 

豊富な形と色の万年筆、オーダーも勿論可能!

 

そんな苦心の末に誕生した笑暮屋の万年筆は、オーソドックスな形状のものから竹を模したものまでモデルがとにかく豊富! サイズはS・M・Lの3つ(一部2つ)、色は7種類(一部2種類)、そしてインクの吸入方式も3つの中から選べます。既製品も用意されていますが、これだけ選択が可能ならオーダーをお願いしたくなるのが人情でしょう。納期は目下3~44~5ケ月掛りますが、文字通り「自分だけの一本」を手に入れることができます。

 

佳子さんによると「ネットに載っているカタログを見た上で、ある程度絞り込んでご来店なされる方が多いですね。とは言えいざ実物を見てしまうと、それぞれの色に魅力があってなかなか決断ができなくなってしまうみたいです(笑)。いずれにしても、皆さん一期一会の出会いを愉しまれ、その人の『背景』が解る選択をなされますね」 また、同じ色でも1本1本模様の出方が全く異なるのがここのエボナイト製万年筆の大きな魅力。荒削りの段階と仕上がりの段階では模様の出方が異なるそうで、色合いが経年で微妙に変化して行くのは、革製品に似ているかも?

 

その一方で、堅牢でありながら軽くて肌あたりが柔らかく、しかも滑り難いエボナイト特有の質感に惹かれてご購入なされる方も多いのだとか。確かに常に手で触っていたい、傍に置いて普段使いしたくなる優しい感触なのです。因みにペン先に用いている材質はそれに最適と言われる14金で(一部に18金もあり)字幅も選べ、その調整技術も同じ荒川区東京に住む我が国屈指の職人に師事を仰いだため、肝心の書き心地も言うことなし! 軸・ペン先共にメンテナンスを行う体制もしっかり整っていますので、長年に渡り安心して用いることができますよ。

 

「ウチの近所に、凄い万年筆作ってるところがある」幸せ!

 

「実店舗を開いてから驚いたのは、ご来店・ご購入いただく年齢層に更に厚みが増したこと。海外ブランドの万年筆に比べ価格がリーズナブルなのも理由かもしれませんが、これだけネットが普及している昨今だからこそ『自らの手で書き記して表現する』ことを、誰もが渇望しているからなのでしょう。エボナイトの硬さ故の『産みの苦しみ』があるので、作り手としても1本1本に愛着が湧かずにいられませんね」そう語る佳子さん。笑暮屋の万年筆は、言わば下町の人情と技能の結晶。お店ではその「粋」をダイレクトに堪能できますよ!

笑暮屋

端部に丸みを帯びキャップと軸には段差がないカプセル型の「萌芽」のLサイズ。ボタンフィラー式 色は黒地に緑の「薫風」 5万8000円(税抜)

 

笑暮屋

竹を模した軸を難しい技法で形にした「立竹」のMサイズ。カートリッジ・コンバータ両用式 色は黒地に赤の「曙」 4万2000円(税抜)

 

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端部が丸くカーブを描いたこれぞ万年筆な形状の「宝珠」のMサイズ。カートリッジ・コンバータ両用式 色は黒地にベージュの「神龍」 4万円(税抜)

 

笑暮屋

端部が平らで滑らかな仕上げに凛々しさを感じる「棗」のMサイズ。カートリッジ・コンバータ両用式 色はこちらも「薫風」 3万3000円(税抜)

 

笑暮屋

端部が平らでキャップと軸には段差がないシンプルな形状の「方舟」のSサイズ。古典的で大容量のインク止め式 色は黒地に赤の「丹心」 4万5000円(税抜)

 

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同じ「棗」でもSサイズになるとさらに扱い易くなる。携帯用にも便利。カートリッジ・コンバータ両用式 色は黒地に濃い青の「深海」 3万1000円(税抜)

 

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エボナイトが今日の合成樹脂の原点であることから、魚類の原点に因んで「シーラカンス」と名付けたギターピック。使い心地の良さだけでなく音色も濁らないと評判だ。「おにぎり三角型」と「ティアドロップ型」の2種類 厚みはそれぞれハード・ミディアム・シン。各360円(これは税込)

 

笑暮屋

万年筆以上に珍しいエボナイト製のボールペン。リフィルはCrossのものが使える。色は黒地に黄色の「江月」 9400円(税抜き)。なお、ファンの多いジェットストリーム4C芯対応のモノもオプション1800円(税抜き)でオーダー可能だ。

 

笑暮屋

渋いマーブル模様が雰囲気満点のペントレイ。筆記具をエボナイトにしたら置物も同じ素材にしたくなること確実!6000円(税抜き)

 

笑暮屋

笑暮屋の実店舗で接客を担当する遠藤佳子さんは、親会社である(株)日興エボナイト製造所の社長夫人。ハキハキ明るくしかも優しい応対は、文字通り下町の人情に溢れています!

 

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笑暮屋
 
  • 笑暮屋
  • 〒116-0002 東京都荒川区荒川1-38-4
  • TEL.03-3891-5258((株)日興エボナイト製造所と共通)
  • eboya.net
  • 営業日・営業時間:水曜・金曜日 13:00~18:00
  • (イベント参加等で変更もあり。詳細は営業カレンダーをご参照方)
  • 文:飯野 高広
 
 

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