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“DO IT YOURSELF” 第4回 時代を映してきたプロダクト「シューケアグッズ」

2018年1月6日
DO IT YOURSELF

佐藤さんが手にする本は、ポリッシュ缶コレクターとサフィールブランドを展開するアルマ社のムーラ氏により発売された「1001 stories of shoe polish tins」。シューケアの秘史を知るのに役立つ一級品の資料だ。

 
FUN TO CARE SPECIAL 靴の楽しみ方最前線 “DO IT YOURSELF”

第4回 時代を映してきたプロダクト「シューケアグッズ」

DO IT YOURSELF

インスタ上で高級紳士靴ユーザーたちが日々の靴磨きの成果をシェアしあっている昨今は、空前の靴磨きブームと言っても過言ではないと思います。今回は以外と知られていない靴クリームの歴史にスポットをあてながら、私なりにシューケアについて述べてみたいと思います。
 
昔から個人的に気になっていた事なのですが、ビンテージショップに行くと古い固形ワックスの缶はたまに転がってはいるものの、いわゆる乳化性靴クリームの瓶のアンティークはまず見かけません。そのことが気になっていたので、調べてみました。
すると乳化性のクリームの歴史は以外に浅く、一般家庭にまで出回りはじめたのは第二次大戦後しばらくしてからのようです。それ以前は油性ワックスのようなものか、獣脂や魚油を用いた、革を柔らかくし撥水性を高めるダビンと呼ばれるものくらいしか存在しなかったようです。

 

先ずは実用優先だった生誕の背景

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最初に登場したのは“ダビン”の方でした。以前、私は100年以上前のノルウィージャン製法の作業靴をみたことがあり、それは硬くて重く、アッパーの革が2ミリ以上はあろうかという重厚なものでした。現在の高級紳士靴のアッパーの厚みは大体1.2~1.5ミリくらいで、2ミリ以上というのは今では婦人靴の中底くらいの厚さになります。当時の靴は柔軟性がなく、屈曲性にも乏しく履き難かったのだと思います。そんな靴を少しでも履きやすくし、ステッチの間から侵入する雨水を防ぐために使われ始めたのが獣脂をメインとしたダビンだったのです。北欧の漁師たちの声から生まれた製品のようですから、もとは彼らの職業上の必需品だったわけです。
 
その後18~19世紀にかけて、紳士靴を美しく黒々しい状態で履く為にススを混ぜた“ブラッキング(Blacking)”が登場します。このブラッキングが今日のポリッシュの直接の祖先になるようです。
18~19世紀といえば大英帝国を筆頭に植民地経営が盛んになり、社会階級の高い貴族たちは映画「サハラに舞う羽根」のごとく愛国心の現れとして従軍し、国家への貢献度を互いに競っていた時代です。
当時の軍隊において、重要な任務の一つに示威行動というのがありますが、占領地においてピカピカに磨かれたブーツを履き一糸乱れぬパレードをすることで、国力の高さを見せつけ、反乱を未然に防いでいたわけです。
除隊した軍人達が国に戻りテーラーで仕立てた平服に着替え民生用の靴を履く事で、今度は軍隊生活で培った靴磨きの作法が民間に伝播します。シューケアの発達も紳士服の歴史とイコールで、二度の大戦や列強による支配の歴史なしでは語れないものと言えるでしょう。そして第二次大戦後に、先ずはいわゆる“ワックス”が一般化します。

 

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以前、某紳士靴雑誌の別冊で、進駐軍のシューシャインボーイから靴磨きの技を学んだ方の靴磨き法が紹介されていました。そこでは一切乳化性のクリームを使用せずにワックスとブラシとネルだけで磨いていらっしゃいました。そのことからも、乳化性クリームは終戦直後の時点ではメジャーでなかったようです。
 
乳化性クリームが一般化するのは戦後少し経ってからです。高度経済成長の頃、乳化剤や界面活性剤を用いた日用品が大量に出回るようになります。洗剤や化粧品などの価格が安定し、一般家庭において日用品としての地位を確立していく過程において、瓶やチューブに入った乳化性クリームが一般的になっていきます。乳化剤を含んだ靴クリームは価格を抑えることに成功し、安定供給を可能にしました。乳化剤の特性である「湿潤」「浸透」の作用で水分やロウ分などの有効成分を、より皮革の奥まで行きわたらせることができるようになったのです。また、乳化性クリームは扱いやすく保湿に優れ、消費者に広く受けいれられ、今日あらゆるところで目にすることができるようになりました。
 

これからの靴クリームの行方

今回は靴クリームの歴史を私なりにたどらせてもらいました。一言で言えば、それは近現代の歴史そのものだという事になります。第四次産業革命ともいうべきIoTによる変革の只中を生きつつ、一方で皮革素材や伝統的技法が共存する現在において、世の中の全てのプロダクトがファンダメンタルに変わりゆくことが予想されます。20年後の社会で我々が日々使っている靴クリームがどのような進化を遂げているのか本当に楽しみですね。
次回の連載は実技編に戻り「コバ仕上げ」についてお話ししたいと思います。
ブラスクハウス主宰 佐藤 哲也(サトウ テツヤ)
大学ではプロダクトデザインを専攻し、その後は仏靴メゾン2社でカラーリストとして腕を磨く。靴に限らずさまざまな領域のカラーリングを手掛けている。伝統的な業界の手法とは異なるアプローチを志向し、顧客参加型のビジネスを立ち上げるべく新しいアトリエの引越し先を物色中。

 

文:佐藤 哲也 写真:桑田 望美


 

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