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“DO IT YOURSELF” 第3回 革と熱の関係

2017年11月21日

DO IT YOURSELF

FUN TO CARE SPECIAL 靴の楽しみ方最前線 “DO IT YOURSELF”

第3回 革と熱の関係

DO IT YOURSELF

私が浅草のギルドで手製の靴作りを学んでいた頃の話です。
吊り込みの技術が不十分だった私は、アッパーを木型にそって整形する際に、甲のあたりのシワをうまく馴らすことができず悪戦苦闘していました。手製の靴作りの場合、ワニという工具で革にテンションを加えながら釘で中底に止めていくのですが、テンションのかかり具合が不十分で木型に完璧にそっていない場合、どうしても甲のあたりに醜いシワが入ってしまいます。

 
何度も釘を抜いてはアッパーを引き直している私を見兼ねた講師が「ちょっと貸してみな」と言って向った先は熱風機。シワのよっている甲のあたりにしばらく熱風をあてていましたが、あまり改善がみられず、今度は銀杏とよばれる熱した鉄製のコテをあて始めました。するとどうでしょう、銀杏で何度かシワのあたりを往復するとアッパーはぴったりと木型の形状にそいはじめ、適度に艶までそなわりました。
 
その出来事から数年後、私はとあるフランスの靴ブランドでアッパーに染色を施す仕事をしていました。アトリエには様々な靴が送られてきます。カラーリング待ちの新品が毎日たくさん来るのはもちろんのこと、明日雑誌の撮影があるから今日の夜までピカピカに磨いておいて欲しいと、広報の担当者から差しこみの依頼があったりと、息つく暇もないまま一日が過ぎていきます。染色と磨きに加えてカラーリストの重要な業務に、お客様の靴の“メンテナンス”がありました。
 
このメンテナンスとは、ただ磨きをかけるだけではなく、潤いを失い履きシワも深く入ってしまったアッパーに、再び潤いを与えて履きシワも可能な限り浅くしてお戻しするという作業でした。靴のコンディションによっては染料を使用して色鮮やかさを取り戻す作業もします。メンテナンスはアッパーの疲労度によっては骨の折れる業務でしたが、本来の表情が戻って美しくなった靴を前に喜んでくれるクライアントと接する事で、エンドユーザーとの接点を体感できる大変貴重な業務でもあったのです。
 

月一回の加熱ケアのススメ

前述した私の職人としての経験から導き出されたトリートメントの特徴は、“アッパーに熱を加える”というものです。エナメルなどの特殊加工を施したものを除き、一般的な皮革素材には元々ある程度熱可塑性が備わっているので、熱によってシワをのばしたり造形を定着させる事が可能です。無論素材によって注意が必要なのはいうまでもありませんが、一般的な牛革で作られた紳士靴であれば、以下の様な手法でアッパーの見た目の疲労度を軽減させることが可能です。
 
まず、靴のシェイプに合ったシューツリーを入れ、調整可能なネジ式等であればいつもより少しキツ目に仕込んでおきます。この時履きジワがしっかり伸びていることが重要です。次に蝋分の多い乳化性クリームを使用してアッパー全体を磨きます。とくに履きジワのあたりは入念にケアしてあげると良いでしょう。
さて、クリームが全体にゆきわたったら、今度はエアホットガンをあてていきます。画像くらいの距離で2~3秒づつあててみて下さい。エアホットガンは熱線が吹き出し口の近くにあり、温度が非常に高いので取り扱いには十分注意して作業してください。

DO IT YOURSELF
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水分の消失によるひび割れを防ぐ目的で塗布した乳化性クリームが革の表層に吸着されて、一度フラットな表情になりますが、冷めたら再度クリームを塗布してブラッシングしてみてください。どうでしょう。アッパー全体のシワが浅くなっていませんか?あとはいつも通りのケアをすればOKです。
 
エアホットガンの取り扱い方については適時私のワークショップでもご説明をさせていただいておりますので、ご興味のある方はBrusque HouseのHPよりお問い合わせください。また、加熱ケアを過度に行うとアッパーの負担となる場合もあるため、このケアは月に一回程度が目安になります。
 
木型の造形を完璧に記憶した手製の紳士靴を見て、それに惚れ込んで仕舞い靴の道の探求を始めたBOQ読者諸氏は多いはずです。Do it your self 第3回目はそんな靴の美の維持について私なりにお話をさせて頂きました。次回は以外と知られていない、靴クリームのヒストリーについてお話をさせていただきたいと思います。

 
 

DO IT YOURSELF
ブラスクハウス主宰 佐藤 哲也(サトウ テツヤ)
大学ではプロダクトデザインを専攻し、その後は仏靴メゾン2社でカラーリストとして腕を磨く。靴に限らずさまざまな領域のカラーリングを手掛けている。伝統的な業界の手法とは異なるアプローチを志向し、顧客参加型のビジネスを立ち上げるべく新しいアトリエの引越し先を物色中。

 

写真:桑田 望美


 

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