日本伝統の織物技術を駆使して作られる“希望の仕立屋”という名のオーダーネクタイ
第10回 サルトリア スペランザ
日本伝統の織物技術を駆使して作られる
“希望の仕立屋”という名のオーダーメイドネクタイ
イタリア語で“希望の仕立て屋”を意味する「サルトリア スペランザ」。テーラーではなく、ネクタイブランドである。手掛けているのは山梨に工場を構えるネクタイ専業メーカー佐野織物。サルトリア スペランザはそのファクトリーブランドなのだ。
純国産のネクタイではあるが、デザインのベースになっているのはトレンドの発信地であるイタリア。ベーシックなデザインの中にもイタリアらしいセンスを織り込んだネクタイとして評価が高い。ちなみに“希望の仕立て屋”というネーミングは、上質のネクタイを提供することで、ビジネスシーンで希望と活力を与えたいという熱い思いがブランド名に込められている。
そのサルトリア スペランザでは今年から、自社工場で織った生地を使用し、糸の染めから縫製、出荷までの工程を一貫して行うオーダーメイドのネクタイがスタートした。シャトル織機をはじめとする古い織機を使って、ゆっくり丁寧に織り上げ、ハンドメイドで縫製していく、まさに価値あるネクタイだ。その詳細を伺うため、今回は佐野織物を訪ねてみた。
千年前から織物が織られていた富士北麓に位置する佐野織物
佐野織物の現在の代表である佐野光昭さんは三代目。祖父の佐野春次郎さんが戦後まもなく、地場産業である織物業を個人で開始。父の佐野清明さんが後を継ぎ、昭和50年代後半から現在のネクタイ専業へ。
「父の後を継ぐことを決心し、1990年にネクタイブランドとして有名な菱屋に入社。川下での修行を開始しました。配属は菱屋の東京専門店部。担当していたお店がテイジンメンズショップなど一流店ということもあり、自然に目が肥えていきました。そのため安価な大量生産品やライセンス商品にはアレルギーがあり、今日のネクタイに対する考えがこの頃に形成されたと思います。そんなクオリティにこだわり続けるネクタイ作りはサルトリア スペランザにも反映しています。」と佐野さん。
佐野織物の工場近くから望む富士山。季節によって異なる富士山の表情が楽しめることも美しい絹織物生産の一翼を担っているようだ。
この地域だからこそ出来る、素材作りにこだわりったネクタイ
富士吉田市を中心とした富士山の北麓は、約千年前から織物が織られていた絹織物の一大生産地だ。そのため、糸の染色から製経、製織、整理までの工程を、昔ながらの方法で行う工房が集積している。
佐野織物はこの地に工場を構えているからこそ、細かな点まで目の行き届いたネクタイ作りが出来るのだ。
まず、パソコンでデザインを起こす。佐野さんがデザインに使っているパソコンは、今となっては懐かしいDOS/Vマシンだ。
少し専門的な話になるが「糸」と「製織」の工程を具体的に説明しておこう。
経糸(たていと)といわれる織物を織る際に縦になる糸は、国内の撚糸工場で作られる28中(なか)2本諸(もろ)を使用している。28中とは27~29デニールの糸のことで間をとって28中といい。その糸に片撚りをかけ2本引き揃え、片撚と反対方向に撚をかけた糸を2本諸という。
普通は21中2本諸を使うのだが、佐野織物では21中より太い28中を使っている。その方が重厚な織物になり色も鮮明に出る。しかし、別枠で撚糸をするため当然コストが高くなる。そのため、現在ネクタイ生地を織る機屋で28中を使っているのは佐野織物だけなのだ。さらに、この糸を地元の染工房で染めている。経色については、通常3~4色もあれば多いといわれるが、サルトリア スペランザには20色以上あり、佐野さん曰くイタリアでも出来ない色表現が出来るのだ。
染工房の天井には染色した糸や精錬した糸が物干し竿に干して乾燥させてある。天井いっぱいに干された糸は壮観だ。
次に横になる糸、緯糸(よこいと)には、他の業者と同じ21中3本片撚りを使うが、柄や組織に合わせて2本合わせ(6片相当)、3本合わせ(いわゆる9PLY)で織ることもある。佐野織物では緯糸の染は、基本的に京都にある染工房の小さなチーズ染色(あらかじめボビンに糸を巻いた状態で染める方法)用の釜で、3㎏の小ロットから染めているという。色はその時のトレンドで随時追加しながらバリエーションを増やしており、現在250色近くもあるそうだ。
糸の準備の段階には、経糸を整える製経という重要な作業もある。
これは決められたデザインで生地を織りあげるのに必要な経糸を、配列にあわせて必要な本数や長さで小さなボビンに1本ごと巻き付けて整えてクリールに配置した後、ビームと呼ばれる大きなドラムにシート状に巻き返す一連の作業だ。緻密であり、求める密度と平均した張力で巻き取るノウハウも必要とする工程だ。こうして整えられた縦糸に、デザインにあった織機で横糸を打ち込んでいって織物が出来上がるのだ。
古い織機を駆使して、効率よりも風合いを優先
製織は100%の自社工場製だ。津田駒製の古い織機が12台と岩間レンツ2台、シャトル織機3台を駆使して、その柄に合った巾や風合いで使い分けて対応している。製織にかかる時間は1時間で1mほどの生産が目安で、それ以上の大量生産は行わない。春夏の定番フレスコ織りに関しては、モノによって1日10本分の生地がやっと織れるものもある。これらの古い織機の維持を考えて、専門業者向けの大量生産は中止。すべてをオーダーネクタイ、もしくは個店の別注のみの生産に切り替えているのだ。
シャトル織機は低速で織るので、ふっくらとした風合いの生地が織れる。
最後に“整理”と呼ばれる織物の仕上げ加工がある。小幅の整理機という専用の機械を使って仕上げ処理を行うそうだ。こちらは多彩なリクエストに応えてくれる近隣の高山整理に依頼している。佐野織物にとっては長年の大切なパートナーだ。
このようにサルトリア スペランザのクオリティは、大量生産に背を向けた自社工場生産に支えられているのは間違いない。しかし、ここでも職人の高齢化と後継者の不在が深刻化している。あと何年このクオリティを維持できるか分からないのだ。その点を佐野光昭さんはもっとも気にかけ、解決したいと考えている。
生地にこだわればネクタイはもっと味わい深くなる
サルトリア スペランザのネクタイは、生地を選んで、長さと大剣の幅を好みで注文でき、裏地は共地、裏地なし(ハンドロール仕様)が選べる。また、芯地もライト、レギュラー、ヘビーから選ぶことができるのだ。もちろん迷った時は佐野さんがアドバイスをしてくれる。注文してから約1か月で完成するというのも嬉しい。
セッテピエゲ(7つ折り)、裏地なしでハンドロールのネクタイ。
「佐野織物の特徴は、豊富な色柄のバリエーションと、生地のクオリティです。イタリアやイギリスの大手のネクタイメーカーに負けないクオリティをこの30年間追いかけてきました。そこに、日本製らしい細やかな紋技術や染色技術を加味し、小ロットで対応しています。オーダーメイドに関しては、独りよがりな提案ではなく、個々のお店、サロン様のリクエストにお応えする形で進めていきたいです」と佐野光昭さん。
原点に戻ったネクタイ作りで最高の仕上がりの逸品をお届け
佐野さんのネクタイへの様々な思いを込めたサルトリア スペランザ。まだ知名度はそれほど高くはないが、ネクタイを知り抜いた佐野さんの作るネクタイはデザインもよく、すべてが高品質。実際に締めれば他との違いを感じるはずだ。
昨今、ビジネスシーンでもネクタイをする機会が少なくなっている。そんなアイテムだからこそ、こだわりのものを選んでほしい。まさに“希望の仕立屋”なのだ。全国のテーラーなどでトランクショーを行っていく準備が進行中なので、ぜひ問合せ願いたい。
■表 地 : 50種類以上
■大剣幅 : 7~9cm
■長 さ : 140~150cm
■芯 地 : ライト・レギュラー・ヘビー
■裏 地 : 裏地付、裏地無しハンドロール(三巻)
■価 格 : 1万6000円(税別)~
■納 期 : 約1ヶ月後
お問合せ: 佐野織物
山梨県 南都留郡 西桂町小沼1927
TEL.0555-25-3370
文:倉野 路凡 写真:桑田 望美
2017.03.23 UPDATE
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