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顧客本位のハウススタイルで第2章が始動

2016年5月30日

羊屋

第1回 羊屋

顧客本位のハウススタイルで第2章が始動

2007年に銀座で創業したテーラー、羊屋はオープンするまで数年の時間を費やしている。最適な店舗が見つからなかったとか、そんな理由ではない。羊屋のオーナーの西口太志さんはテーラーやカッターではないが、数多くのビスポークを楽しんできた人物。自ら袖を通して納得できる着心地のいいスーツができるまではオープンしなかったのだ。その理想のスーツに応えたのがマスターカッターの中野栄大さんだ。彼は老舗の一流テーラーで高い技術を習得し、さらに羊屋でも腕を磨いてきた職人だ。基本的にハウススタイルでの提案はせず、お客様の職業や用途、体型などを考慮してもっとも似合うものを作り上げていくスタイルだ。また、手縫い箇所が多く、芯地も一点一点製作。着用するととても見映えし、手縫いならでは柔らかさと美しさがあるのがポイント。隠れた名店的な存在だ。
 

羊屋
オーダールームを兼ねる工房は、東京メトロ日比谷線・東西線 茅場町駅3番出口より徒歩1分の運河沿いのビルに。1927年竣工のクラシックな建物も必見。階段を上って3F、羊屋の扉を開けると自然光あふれる心地よい空間が広がる。

 

羊屋

 

スペシャリストの感性が行き届いた新アトリエ

この春に日本橋茅場町に移転した羊屋。以前に比べると窓も多くなり、たくさんの光が差し込む明るいアトリエに様変わりした。マスターカッターで仕立て職人の中野栄大さんは朝の9時前にアトリエに入り、夜の10時頃まで仕事をこなす毎日。外部の職人に仕事を振らないため、採寸から型紙作り、仮縫い、縫製までのすべての工程を一人でこなしているのだ。そのため1ヶ月に仕立てられるスーツは3着が限界だという。
 

羊屋
中央の長さ3mあるL字カウンターで工房と接客スペースを分けたアトリエ。このL字カウンターは、製図やスーツ1着分の生地を裁断をするのに最適なサイズに設計されている。時間を忘れてしまうほど服作りに集中でき、顧客にとっても居心地の良い空間だ。

 

「スペースも広くなり、店内も明るくなったためお客様の評判もいいです。自然光で生地の色や柄を確認していただけるのが嬉しいです。以前の店舗も歴史のあるビルでしたが、こちらも1927年に完成したとても古い建物です」と中野さん。
 

店内をさらに広く見せているのは、作業するアトリエスペースとフィッティングスペースが壁で分けられていないためだ。以前の店舗は「和」のイメージで統一されていたが、今回は「ライトなビンテージ」といったところ。建物の歴史と同調するかのように、床の一部がクラシックな寄木になっていたり、置かれている椅子も1950~60年代に製作されたビンテージもの。リプロダクトではないデンマークのハンス J.ウェグナーの椅子だ。取材時に座ってみたが疲れにくく寛げるのだ。
 

羊屋

 

フィッティングスペースの壁にはタテ2m×ヨコ1.3mの大きな三面鏡が設置されている。仮縫いや納品のときにお客様にスーツを着用してもらい、鏡から少し離れて全体のシルエットをチェックしてもらうという。鏡が大きいと離れて見ることができ、客観的にシルエットを見ることができるのだ。
 

羊屋
「ここまで大きな鏡があるテーラーは珍しいと思います」と中野さん。大きく開く三面鏡からも顧客への心配りを感じることができる。

 

試行錯誤の末にハウススタイル“27モデル”も誕生

変わったのは店内の雰囲気だけではない。これまでハウススタイルのスーツをもたなかった羊屋だが、移転をきっかけにハウススタイル的なモデルを完成させた。“的”と付けたのはハウススタイルしか作らないというわけではなく、従来のようにお客様の容姿や職業、作るアイテムなどを考慮して“お客様にもっとも似合うスーツを作り上げるのが基本”というのに変わりはない。「やはり服が目立ってはいけないと思います。スーツはあくまでも脇役でいいんです。お客様を引き立たせるスーツこそが、一番似合っているスーツということです」と中野さん。ハウススタイルを作っても、考えにブレはないのである。
 

羊屋

 

ハウススタイルを作る理由を聞いたところ、初めてのお客様の場合、完成するスーツをイメージしにくい場合がある。また、雑誌などのメディアに載る場合もどんなスーツを作るのかが伝わりにくい。そういった理由から、中野さんが試行錯誤の末にハウススタイルモデルを完成させたのである。
 

たとえば、ハウススタイルと同じものを作って欲しいと要望があれば基本的に作るのだが、もし似合わない場合は、一部のデザインを取り入れながら、より似合う方向へと変えていく。ハウススタイルの場合は、似合う・似合わないに関係なく、体型補正して終わりなのだ。羊屋はすべてがビスポークなのでより細かな調整が可能というわけだ。もちろん仮縫いもある。
 

羊屋

 

具体的に今回完成したハウススタイルの特徴を言うと、ウエストの絞り位置とボタン位置をやや高めに設定し、襟をセミピークドラペル仕様にしている。じつはこの襟にはオリジナルがある。1927年に有名な録音を残したジャズのコルネット奏者“ビックス”バイダーベック(1903~1931)が着ていたスーツからイメージしている。羊屋が入っているこの建物も1927年に完成したということもあり、縁を感じて“27モデル”と命名。襟の部分にクラシックなディテールを反映させているが、1920年代のクラシックなスーツのデザインというわけではない。肩はナチュラルショルダーで、全体的に丸みをもたせながらも、フロントカットやポケットなどのディテールでシャープな直線を出してバランスをとっている。中肉中背のごく一般的な日本人に似合いやすい、現代のモデルとのこと。
 

羊屋

 

変わらないのは職人の真摯な仕事ぶりだ。羊屋は創業当初から手縫いの工程が多い。ミシン縫いが直線的で無機質な仕上がりになるのに対して、手縫いは丸みやボリュームを生み出し、見た目にも柔らかな印象に仕上がる。縫製工場によるマシンメイドのパターンオーダースーツとは一線を画する、本物のビスポークスーツなのである。
 

羊屋
手縫いを行う中野さん。希望すれば自分の洋服を縫っているところを見学することもできる。写真を撮影して自分のSNSにアップしてもOK。スーツができ上がるまでのすべての時間を楽しんで、ビスポークならではの醍醐味を満喫してもらいたいとのこと。

 

羊屋

 

着心地を追求するため、芯地はすべてオリジナル

もう一つ特筆すべきは、お客様に合わせて、使用する素材や季節に合わせて一点一点芯を作っているということだ。羊屋の場合(作るスーツによっても変わるそうだが)、ベース芯(台芯)に毛芯(何種類かある)を使用し、胸にハリ感を出すためのバス芯を、その他にダック芯、体のアタリを柔らかくする、フェルトのようなドミット芯を組み合わせて作っている。専門業者に依頼して作ってもらう“出来芯”ではなく、前述の芯をそれぞれ適正に重ねていき、どこにもない唯一のオリジナル芯を作るのだ。針を芯に刺す(オリジナルの芯を作る)テーラーの数は少ないという。「服地はデザインに影響してきますが、芯地の作り方や体にどう沿わせるかは着心地に直結する大切なところなんです。季節に合わせて芯に刺す糸の太さを変えたり、新しい芯を試してみたり、常に最適なものを選ぶようにしています」と中野さん。
 

羊屋
羊屋で使う芯地の生地。生地と生地の間に挟む芯地は手作業で縫い留められていく。身体の曲線に沿わせた丁寧な仕立てによって着心地の良さと高い耐久性が得られる。

 

羊屋
仕立て中のスーツの芯地部分を見せてくれた。様々な種類の芯地が組み合わされた緻密な様に中野さんの妥協のない仕事ぶりを伺える。

 

ライフスタイルに合う、仕立て映えする服地がきっと見つかります

職種によっても異なるが、ドーメルの「アマデウス」は品質が良く、ほどよい光沢感があり人気だという。営業職の場合は難しいかもしれないが、光沢があると仕立て映えするという。また、最近の傾向は地味なビンテージ生地風のものが人気だという。その他、ホーランド&シェリーなど一流の服地が揃っているので、じっくりと選んでもらいたい。
 

羊屋
羊屋

 

羊屋
羊屋

 
 

Order Price
 
スーツ(2ピース) 35万円~
ジャケット 26万円~
トラウザース 9万円~
ウェストコート 8万円~
オーバーコート 31万円~
※初回注文時は仮縫い2回
※価格はすべて税込み
Shop Data
 
羊屋
東京都中央区日本橋茅場町2-17-13 第二井上ビル305
TEL&FAX 03-6667-0783
営業時間: 10:00~20:00(要予約)
店休日: 日曜・祝日
www.tailor-hitsujiya.com

文:倉野 路凡 写真:猪又 直之


 

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